かえしてください、と彼女は言った。
 しらない、と僕は言った。



       op. 御伽噺/Possessiveness



 ──むかし、むかし。あるところに一人の男が住んでいた。
 ある日男は、池のほとりの松の枝に、とても美しい布が置いてあった。
 男はそれをとても綺麗に思い、そのまま持ち帰ってしまった。
 帰ってほどなくして、家の門を叩く音が聞こえた。男は布を屋根裏に隠し、来客を出迎えた。
 訪れた客は、とても美しい女だった。それこそ、この世のものとは思えぬほどに。
 池のほとりの松の木にかけてあった羽衣を知りませんか、と女は言った。男はすぐにそれが自分の持ち帰った布なのだと理解した。
 一瞬、持っている、と正直に口にしそうになった男だが、思いとどまり、それは大事なものなのですか、と訊いた。女が頷くと、今度は、何故その羽衣がそんなに大切なのですか、と訊いてみた。
 自分は天女で、あれは天の羽衣です。あれがないと天に帰れないのです。女は哀しそうに答えた。
 刹那女を不憫に思ったものの、男はすっかり羽衣の魅力に取り憑かれ、返したくはなかったし、それに一目見た時から女に恋焦がれてしまっていた。
 男は、羽衣が見つかるまでここにいていい、と言いくるめ、天女を自分の傍に置いた。
 やがて二人は夫婦となり、子供が二人生まれた。
 だけどそれでも、天女はずっと嘆き哀しんでばかりいた。男もさすがに、そんな天女の様子を見て、不憫に思っていた。

 そして男は────────


















 ────結末は、覚えていない。


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